東日本大震災の経済シナリオと必要な対策について

 今回の東日本大震災によって日本経済の先行きが見えなくなっています。
実は、昨年10月に「首都直下地震による経済復興シナリオ作成の試み」というディスカッションペーパーを内閣府経済社会総合研究所より発表しており、その内容の一部は参考になるかもしれないと思いましたので、ここに記したいと思います。
  このペーパーでは4つのシナリオを提示しましたが、最も当てはまりそうなものは「財政破綻への懸念が大きく、復旧復興関連市場に余剰生産力がない」ケースです。
 財政破綻については、この地震が即我が国の財政の信用力に致命的な影響を与えるとは考えません。しかし電力供給の制約された状態が長期化するとすれば経済成長はマイナスに転じ、その結果日本国債の信用力が低下、長期金利の上昇という事態は可能性としてあり得るように思います。
 また、復旧復興関連市場というのは主に建設業を念頭に置いていますが、こちらは慢性的なデフレギャップが存在すると言われるものの、すでに1995年の阪神・淡路大震災当時に比較しても建設業の市場規模は半分、就業者数は3/4まで落ち込んでいます。被害の全容はまだわかりませんが、それらの復興需要を十分に満たすほどの余剰生産力は日本経済に存在しないかもしれません。実際、阪神・淡路大震災後には東京でも資材価格の上昇がみられるほどです。
 この場合の経済シナリオは次図のようにまとめられています。 

最悪の経済シナリオ

  • 日本政府の抱える債務の償還能力に対して疑念が生じ始め、国際資本市場においては日本国債のリスクプレミアムが上乗せされる。
  • 日本国債のリスクプレミアムは円安をもたらし、復興に必要な資材価格の上昇を招く。
  • 多くのグローバル企業は日本市場から撤退することとなる。そのことは、復興投資を抑制することとなり、日本経済の総供給を減少させる。 
  • 加えて、国内の建設市場は十分な余剰生産力がなく、大規模な復興需要を満たすことができず、インフラの復旧やオフィスビルの再建は遅々として進まない。
  • 加えて建設業を中心とした資材価格や賃金の上昇が発生し、国内の物価水準が上昇することとなる。
  • 物価水準の上昇は円安をさらに加速させるが、震災復興が進まず国内の供給能力が制約されることから、輸出はそれほど伸びず、国内総需要は低迷する。
  • すなわち、日本経済は震災をきっかけとして、物価水準の上昇とGDPの低迷というスタグフレーションに陥ることとなる。

さて、このようなシナリオが現実にあるとすれば、それを回避するためには次のような対策が必要かと思います。
(1)断固として日本経済を復活させる、継続させるという意思を海外に向けて発信すること。そのためには今行っているようにマネーを継続して供給することは必要ですし、政府も全力で財政出動にコミットする必要。今は危機対応の時期であって、増税の議論をしている場合ではない
(2)復興資機材を十分に確保する。円高に振れている今海外から輸入しておく。
(3)限られた建設企業をインフラや企業設備の復旧に優先的に割り当て、生産力の回復を早期に行う。必要があれば海外企業の協力も得る。
(4)優先順位の低い復旧・復興事業は急がず被災者を雇用することで、復興資金が被災者の生活再建支援に使われるよう配慮する。(「被災地にCash for Workを」、「CFWの具体的提案」参照)
(5)電力需要については、中長期的には首都圏における電力消費に大幅に課税することで、これまで首都に集中してきた経済活動や人口を地方に分散させる。これは地方の活性化にもつながる。企業が海外に移転する決断を行う前に、国内に留まってもらえるよう、地方移転に対して何らかのインセンティブを与えるのも必要。

永松 伸吾 の紹介

関西大学社会安全学部教授。災害経済学を教えています。現在LA在住。
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東日本大震災の経済シナリオと必要な対策について への4件のコメント

  1. 松阪谷 浩止 より:

    CFWについての松永先生の提案に賛成いたします。
    収入の途切れた被災者の生活再生に最も効果があると思います。
    政府に取り上げられることを願います。

    私の提案として

    1.太陽電池を工場の屋根等に設置する。
     これは、最大電力が夏場の日中に発生することから、蓄電の必要を考えなくても良いし、メンテナンスも楽にでき、かなり効果があると思います。これもエネルギー政策に合うし、産業に対する刺激になると思います。住宅の屋根ですら4kwhの発電量が得られるのです。急げば、2、3ヶ月で100〜200万kwhの発電量が得られるかもしれません。

    2.関東・関西間の50/60ヘルツ問題を解消すべきです。
    これにより、エネルギー効率が最大20パーセント向上します。家庭用の機器の多くがインバーターを採用しているし、工場の動力源もインバーターを使えば問題なく使えますし、新たな景気刺激策になると思います。関西に接する地域から少しずつ東に進めるとよいと思います。

  2. いは より:

    【賛同者・協力者募集】の方は実名でとの事でしたので、こちらに記入させて頂きました。
    必要があれば実名での活動も致しますが、ネット上では主に匿名で活動させて頂いておりますので、取り敢えずは匿名で失礼致します。
    一応ライターですが、経済関連などではなく、ただの一個人です。
    CFWの内容も完全に把握しているとは言い難いですが、概ね賛同させて頂きます。
    特に5)電力需要については非常に良いと思いました。電力消費の激しい真夏にだけ課税など出来れば、エアコン使用を抑えようと言う動きにも繋がるかと思います。
    東北以外への立地支援インセンティブなどを一時停止し、被災地に集中させて投資も引き出したり、震災をプラスの方向に持って行く必要があると私も思います。

    当方ではCFWほど専門的な活動ではありませんが、被災地での仕事作りと、記憶の風化を防ぐ意味で、主に学校関係者や旅行代理店と相談して「修学旅行や社員旅行を東北で」と言う活動も予定させて頂いております。

    私に出来る事は少ないですが、一般向けの文章や動画の作成、IT関連の御質問、拡散などは御協力出来るかも知れません。
    情報共有に関しても、twitterやSkype、Youtube程度の下地作りなら御協力出来ますので、メールにて御相談下さい。
    親交のある議員や専門家への紹介もしようとは思っておりますが、御協力頂けるかどうかは先方次第になりますので、申し訳ありませんがそちらは御了承下さい。

    御互い頑張って行ければ幸いです。宜しく御願い致します。

  3. 秦康範 より:

    4月に入って寒さが落ち着くと、需要が落ち着きます。夏までになんとか対策をとらないと間に合わなくなります。地方分散にさせないと、永松さんが懸念されるように国外に流出してしまいます。

  4. 秦康範 より:

    さしあたって3月を乗り越えたとしても、夏季需要のピークがだいたい6000万キロワット超えます。ですから、現在の供給量が3400万キロワット程度ですから、これが停止している火力発電を稼働させても、大きな需要が足りない事態が来るのは間違いありません。

    そうなると、計画停電といっても、現在のような規模ではとても間に合いません。そうなると、首都圏の経済活動が麻痺してしまいますので、さらに悪いシナリオとなる気がします。

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